鉄筋コンクリートを考える ~第3話:壁面のクラックと鉄筋の降伏・エポキシ樹脂圧入~ 長野市 外壁塗装・屋根塗装専門店トラスト
こんにちは、長野市の外壁塗装・屋根塗装専門店のトラスト施工部Sです。
好評を頂いた鉄筋コンクリートを考えるシリーズ ~第3話:壁面のクラックと鉄筋の降伏・エポキシ樹脂圧入~ をお届けします。
これまで、コンクリート材料について確認したのち2つのRC構造のシステムについて話をしました。
今回はRC構造に生じたひび割れ“クラック”について考えてみたいと思います。
0.これまでのまとめ
第1話では、コンクリートの引っ張り強度は圧縮強度の大きさに対して1割あるか否かという程度しか存在しないことを取り上げました。
そこで鉄筋コンクリート構造(RC)では、コンクリートの引張り強度をゼロとして無視し、代わりに鉄筋(鋼材)が引張り強度を補っています。
これについて第2話では、RCの基本的な2つの構造と強度に関するつくりについて触れました。
大前提としてコンクリートは圧縮強度のみを評価し、鉄筋(鋼材)は主に引っ張り強度を評価して、RCは設計されています。
Ⅰ.ひび割れ(クラック)の発生
クラックの発生にはいくつかのパターンがあります。なかでも代表的な3つを紹介します。
1つ目はコンクリートの硬化する時や打ち継ぎ時に生じてしまうものです。特にコンクリートの打ち継ぎ不良によるクラックは“コールドジョイント”とよばれ、コンクリート工事やり直しの対象となります。そのため私たちの目にする事ができる建築物完成後の姿に現れていることはあり得ません。したがって詳しく追及はしません。
2つ目はコンクリート内部の化学反応によって生じるクラックです。コンクリート内部の鉄筋が腐食などによって膨張しクラックが生じてしまいます。これに関連したテーマについて次回第4話で取り上げたいとおもいます。
3つ目は建築物に物理的な力(外力)が働いてRC躯体に生じるクラックです。ではRCはどのような力によってひび割れが生じてしまうのでしょうか。
それは一言でいうと、引張り荷重 です。
しかしながらこの引張り荷重について考えると、実際のRC造の建築物においては、直接的に引っ張る力(外力)を受ける様な場合はまれです。
というのは多くの場合、建築物の自重や積載物の鉛直荷重・風圧力や地震力といった水平荷重などの外力(建築物が受ける力)によって、建築物の躯体には軸方向力・せん断力・曲げモーメントと呼ばれる反力(抵抗する力)が生じ、それら反力が躯体部材断面内で最終的に変化して圧縮荷重と引張り荷重として作用するのです。
これをまともにシュミレーションするのは大変なので、
ひび割れ(クラック)の方向と直行する方向に引張り荷重あり と考えましょう。
さて、これまでのRCの話を振り返ってみると、
鉄筋(鋼材)は主に引張り コンクリートは圧縮だけ でしたね。
この時、ひび割れ(クラック)によりコンクリートの連続性(一体化した状態)が無くなっているので、RC躯体のひび割れ(クラック)部分の引張り耐力は、完全に鉄筋へ一任されています。ここに、RCにおける鉄筋とコンクリートの耐力の役割分担(主に引張りと圧縮のみ)が見受けられます。
ではこの時、ひび割れ(クラック)部の鉄筋はどの様な状態なのでしょうか。
Ⅱ.鉄筋の弾性限度と降伏
鉄筋(鋼材)はコンクリートと比べるととてもしなやかに変形する事ができます。これを「(鋼材は)弾性に富む」といいますが、鋼材の弾性にも限界があり弾性限度といいます。第2話でも少し触れましたが、弾性域内では荷重と変形が比例関係にありフックの法則が成り立ちます。これを“ばね”に例えるとえると、荷重が働かなくなると伸び縮み(変形)は無くなり元の長さに戻ります。
一方、たとえ一度でも弾性域を過ぎてしまうと荷重が働かなくなっても変形が残ったままになってしまいます。これを「(鋼材が)降伏した」といい、このような降伏後の性質を弾性の対義語として塑性といいます。
どんなによく伸びる“ばね”でも、引っ張りすぎると伸びてしまいますし(塑性化)、それでもまだ足らんと更に引っ張ろうものなら、ばねは切れてしまいます(破断)。
このように鉄筋(鋼材)の状態を考える時、“鉄筋が降伏したか否か”が重要な要素となるわけです。
そして、ひび割れ(クラック)部の鉄筋の状態はというと・・・・・まず降伏していることはありません。なぜかと言うと、RCは大抵の場合の力(長期荷重)に対して鉄筋が降伏しないように弾性域内で設計しているからです。従ってクラックを顕微鏡レベルでモニターしてみると、載荷の状態によってひび割れ幅が変動する様子が観察出来るはずです。
では外力によって生じるRCのひび割れ(クラック)部分について、当該鉄筋はまず降伏していないとした上で、RCのひび割れは何が問題なのでしょうか?
Ⅲ.クラックの問題点 ~ 雨仕舞 ~
RCのひび割れ(クラック)一番の問題点は、ずばり、“雨仕舞”にあります。この言葉、雨仕舞(あまじまい)は建築業界外では聞きなれないものと思います。これは主に、雨水の侵入に対して抵抗する性能や仕組みの総称です。
RCはコンクリートによって一体化された構造ですが、局所的にひび割れが生じてしまうと、当該箇所は局所的に完全な一体性は失われてしまいます。これにより水密性と気密性を悪化させてしまう事が考えられます。
一概には言い切れませんが、今回のように弾性域内の想定では、気密性を著しく低下させるほどまでの大きなひび割れ幅が生じることは考え難いです。
しかし水密性は厄介です。もちろんひび割れ幅が大きいほど気体も液体もより多く侵入してしまうのですが、液体にはある性質が存在します。
毛細管現象です。表面張力によって引き起こされるこの現象のために、水密性に関してはむしろ微細なひび割れ幅ほど注意が必要です。
ひび割れ幅の大きさにもよるのですが、一目でわかるような大きなひび割れの場合は内外の圧力差で液体が運搬されているのに対して、微細なひび割れの場合は内外の圧力差による運搬に加えて、表面張力による毛細管現象でも液体が運搬されてしまいます。
壁面に現れたひび割れは目視によって確認できても、そのRC内部ではひび割れがどのように廻らされているかはわかりません。しかしひび割れが内部の埋設された鉄筋(鋼材)と干渉することは想像できます。
この壁面のクラックが雨水に打たれると、ひび割れ伝いに雨水や湿気が内部へ侵入して鉄筋が水分にさらされてしまいます。するとコンクリートによる鉄筋の防錆効果(第1話参照)が薄れてしまい最悪の場合、錆が生じることで鉄筋が膨張し、ひび割れを更に増大させてしまうことがあります。(第Ⅰ章の2つ目のクラック発生を誘発)
(余談になりますが)2003年の法改正によって24時間換気設備の設置が義務化された今日、例えば第3種換気設備(自然吸気+強制排気=屋内負圧)が設置されている場合、水密性と気密性へ影響を与えるほどの負圧が生じているとは考え難いにせよ、そもそも一体化構造のため十分に気密性の高いRC造に生じたひび割れ部は、負圧による吸い上げ効果によってよりシビアな状況にさらされてしまいます。(従って第3種換気設備の場合は自然吸気口の目詰まりが致命的なので定期的な掃除と点検が必要不可欠です)
Ⅳ.RCに於けるクラック補修の意義
トラストではRCの外壁塗装工程前に念入りにクラック補修を行います。
ひび割れを可能な限り内部の奥深くまでしっかりと塞ぐため、画像のように水を与えながら専用の器具を使ってを圧力挿入することで、RCのひび割れ(クラック)内部まで特殊な樹脂を充填させます。なぜ水を?と思ったことでしょう。それはこの樹脂が(セメントの水和反応のように)水分に反応して硬化するためです。また水に濡れる事で見逃しがちなひび割れ部の視認性を高める効果もあります。
このようにRCひび割れ部を、ひび割れが生じる前の気密・水密状態へ徹底して近づける事こそ、RCに於けるクラック補修の意義といえます。
まとめ
鉄筋が降伏しない程度の引張り荷重によって壁面に現れたRCのひび割れ(クラック)は、主に雨仕舞を悪化させることがわかりました。
そして専用の器具を用いて樹脂をひび割れ部へ充填させ、雨仕舞を回復させる補修の意義を確認しました。
鉄筋コンクリートはやはり奥が深いですね。
鉄筋コンクリートを考える ~第3話:壁面のクラックと鉄筋の降伏・エポキシ樹脂圧入~ をお届けしました。
■□次回予告■□ 鉄筋コンクリートを考える ~第4話:RCの寿命とコンクリートの中性化~ 乞うご期待!
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